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酒と肴

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teacon Eno.70 パステリージア・カンパネラ

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teacon Eno.70 パステリージア・カンパネラ







wat planet

気付いたら勝手に魔王にされていたしがない魔法天使。

与えられた力でもって、彼女はできるだけ洒落たかわいいお城を築くことを決意した。

名はパステリージア・カンパネラ。前職は見習い人形師であった。



第1週目



勇者たちが来る。もう覚悟は決めたので、私は冷静に魔王の役割を全うするだけ。それだけなのです。


そもそも私はどうして今魔王やってるんでしたっけ…いや、ここに来た時のことを思い出すことになるのでそういうのはやめときます。

とにかく今の私は魔王なのです。なんやかんやあって魔王としてこの城を護り抜く役目を課せられた、魔法天使なのです。
ここの神様はずいぶん無茶を言いますが、彼等に従い茶葉を作ることがやはり私が今このピンチを生き延び乗り越える為の最善策のように思われました。

よい茶葉をつくり、世界の創造主に許しを請う…これが最も平和的です、提示された方法はたしか2択でしたが。

これは私の「平和的茶葉生産生存作戦」、その記録です。


先が思いやられますが私とて伊達に神の使いをやってきた者ではありません。

この力を以ってして私、この度「魔王」になりきってみせます。私のほんとうの神様のもとへ帰るために。

第2週目


『その昔、私たちの神様は、かつて気高き神々の故郷であったからっぽの天界をひとり大事に守ってゆく役割を引き受けたのだそうです。
魔法の得意なその神様は、まず天界を丈夫な優しい魔法の壁で包み込み、それから私たち魔法天使をひとりひとり魔力を注いで作り出し、天界を豊かにするため天使たちと協力しながらせっせと働いて。
そうして出来たのが私の故郷である今の天界。球状天界などと呼ばれるどこかまったりとした穏やかな時間の流れる平和な世界でした。
球状天界を作り終え、天使たちの生活も落ち着いた頃、神様はすこし長い眠りにつくことにしたそうです。
神様はそのお姿を世界樹に変え、球状天界の真ん中にどっしりと据わり、眠ったままで魔力の素を撒き続け、それで球の中を満たしました。
神様が世界樹になったあとも、時折その樹から天使は生まれ、やはり天界は変わらず平穏を保ち続ける、はずでした。
その世界樹がだんだんと弱り、生命力を失いはじめるまでは。』

………………
……

ああ、なんとか生き延びました。
勇者たちの進攻…攻め入られるというものは、思っていた以上に、恐ろしくて。
…城の飾りつけはなかなか楽しいのですが、ここでの生活はとても疲れるものです。特に精神が。
さて、疲れていても敵は攻めてくるので、彼らの襲撃に備えて今は眠りましょう。
その前に、少しだけお祈りを。

アイコン 「…どうか、ご加護を…。」

第3週目


きらきら、きらきら。すこし、ふわふわ。
そんなことばにならないもの、オノマトペのせかい。

……

恥ずかしながら私、パステリージアは、言葉があまり得意ではないのでした。
昔から。そう昔から、きっと、これからも。
同じ魔法天使の人形師である弟分も、そのようであったと思います。
心の中には確かにあるのに、うまく言葉にできない。そんな気持ちが私たちには星の数ほどあるのです。
では、それを表現する方法は?簡単にはゆかないのでしょう。
それでも少しずつ、なにか伝えられたら。
ひとりの創作者として私は、なにかたくさん悩みながらも、今もこうしてせっせとお人形を作っているのでした。

 「どうしましたか、ポラリス?……ああ、紅茶ですか。では頂きますね。」

第4週目



畑の様子を見に行ったところ、なんと石油が収穫されていました。何故。そんな馬鹿な。
そんな奇妙な光景にお人形たちは大喜び、ご満足の様子で。
これを素材に新たなお人形を作る身としては素直に喜んでもいられないのですが…。

……


そしてその夜のこと。うとうと微睡んでいた私の肩を叩き、あるお人形がいうのでした。

 「かあさま、かあさま、お客さまがお呼びです。」
 「ええ?どうしてまたこんな夜更けに…どなたですか?」

彼女は黙って首をかしげてから、少し間を置いて、

 「お電話、おつなぎいたします。」

そう言って部屋を出て行ってしまいました。
私は備え付けの機器を手に取り、そこから声が発せられるのを待ちます、そして間もなくして。

 「あの、お師匠さま、ボクなのだけれど。」

そこから聞こえる声に私は耳を疑いまして、つぎに頭や機器の音質を疑ったのです。

 「は…………ええと、もしかしたらなのですが…貴方はプリズマリアさん、でしょうか?」
 「ええ、おまちがいなく、ボクはプリズム。」

…眩暈がしました。とにかく部屋へご案内するようお人形に頼んで、私は機器を元に戻しました。
彼は私の弟子、というより弟分というような方で、その名をプリズマリア・カンパネラというのでした。
プリズムはお人形ばかり作る私とは違い、なんとそのお洋服まで自らの手で作ってしまう器用な子です。
私が居なくなってからは勝手にお店番を任されてくれるものとばかり思っていましたが、何故だか彼はいまこの世界にいるのです。
善意も悪意も飛び交うこの混沌の地に、何故だか。



 「プリズムさん!!なんでこんなところに来ちゃったんですか!?お店は!!お家は!!?…と、いうか…なんで私の居場所が分かったんですか?私、突然ここの神様に召喚されてしまったはずなのですが…。」
 「?ここにきたのは、あなたがいるから。まあ、家のことは近所の方にお願いしたのだし、だいじょうぶ。あなたのいるところを知ったのは…匿名の方からの密告。」
 「なんですか密告って…お金とか取られてませんか?あんまり危ないことしないでください、私心配です…。」

戸惑う私をよそに、マイペースな彼は勝手に部屋で荷物を広げながらゆったりした様子でいいました。
 まあまあ、いいの。ボクはあなたがいないと、よく眠れないし。それに…」
 「ボクは、お師匠さまにまた会えてうれしい。あなたは、僕と同じ気持ちにならないの?」

寂しがりで甘えたな彼は、そうしてわたしにほほ笑み掛けるのです。
ああ、こんな顔をされては…

 「…仕方ないですね、では明日から私のお手伝い、がんばれますか?」
 「もちろん。いえ、いまからでもがんばれる!」
 「え?いやいや…ですから明日から……。」
彼は広げた荷物を整えて、せっせと洋服の構想をノートに描き込み始めました。
それにしてもまた、ずいぶんと不思議な生地を持ってきちゃっていますね…私は心配です…。

第5週目


「いや…いやいやいや……。」
今私の目の前にあるのは紛れもなく炎であり、炎以外の何物とも思えないのでした。
強いてほかのものとして見るならば、これは、きっとお洋服。
…というか、この炎を私の目の前に差し出したこの彼は、昨日までせっせとお洋服をつくっていたはずなのです。そのはずなのです。
「…どう?このドレス…きれいに作れたと、おもうのだけれど。」
 「きれい…そうですね、まあ綺麗なんですけれど…その、裾がですね、燃えていませんか?」
「そうなの。『火花のドレス』、みたいな。」
「ああー、なる…ほど…?」
たしかに炎というのは芸術的で美しいものなのです。それはわかります。
それをそのままお洋服の装飾として使うのには疑問がありますが、彼なりのこだわりがあるのでしょう。これを非常識だと全否定するのはナンセンスなのかもしれません。

  「…まあ、燃え移ったりしないのなら大丈夫ですよね。さっそく新しい子に着せてあげましょうか。」
 「そう、着せてあげなくちゃ。」
揺らめく炎に怯みながらなんとかお人形にドレスを着せていると、後ろからちいさく声が掛かりました。
「ありがとう。…わかってもらえて、うれしい。」

第6週目

ことりことり。
独特な音をならしながら、お人形たちが城の中を歩き回ります。
彼女たちは大きさや色合いもまちまちで統一感こそないものの、同じ作り手から生み出された姉妹であるせいか、なんとなく似通った雰囲気があります。
アイコン ごそごそ、わらわら。
アイコン かたかた、きゃいきゃい。
アイコン 「うんうん、この子たちも仲良くやれていますね。」
アイコン 「そうみたい。…よかった。」
天界の工房で作られた子たちも大体は仲良く過ごしており、買い手が決まって別れの時が来ても、お元気でと手を振って少し名残惜しそうに仕舞を見送ったりするのです。
ときどき合わない子たちがいても、それぞれ別の姉妹と仲良く過ごしていました。
この城で作られた子たちはすこしお仕事の手伝いや戦いに向いた実用的なつくりにはなっているものの、問題なくお遊びなどもできているようでした。
アイコン 「かあさまは、おままごとされないのです?」
アイコン 「私ですか?ええと…」
アイコン 「じゃあ、私も仲間に入ってもいいですかー?」
アイコン 「「「!!!!」」」
きゃいきゃい、とお人形たちが集まってきて、私はあっという間に彼女たちに取り囲まれてしまいました。
プリズムさんのほうにちょいと手招きをして。
アイコン 「じゃあプリズムさんもご一緒します。よろしいですか?」
アイコン 「大歓迎です。」「ようこそなのです!」
アイコン 「わ…ボクもいいの?おままごと、ひさしぶりなのだけれど…。」
アイコン 「へいきへいき。」「お父さんしてほしいのです。」
こうしてプリズムさんも巻き込んで、ふたりでお人形遊びのはじまりです。
ことりことり、不思議な音の鳴る、お人形たちの家族ごっこ。
お人形さんはこうして一緒に遊んであげると、とっても元気になるのですよ。

第7週目


お師匠さまのところに来る前は、ボクは天界を離れいろんな世界を転々としていたとおもう。
職も何度か変わったし、天使の仕事とヒトの仕事を掛け持つこともあった。
ボクにお洋服のつくり方をおしえたのは誰だったか。もうよくおぼえていないけど、あのヒトはいいヒトだった。今はそうおもう。
いろいろ見て触れてきてひとつたしかにわかったのは、どこの世界にもボクが心地よく生きていけるばしょは、あんまりないということ。
しかたない、しかたない。
アイコン 「あらら…こんなところで寝ていたら風邪を引いてしまいます…。」
アイコン 「ちょっとよろしいですか?私、プリズムさんを部屋まで運ぶので、扉を開けて頂きたいのですが。」
アイコン 「おまかせくださいな。」

第9週目

しゃんしゃんと鳴るは、鈴の音。
ぴたぴたするのは、あのひとの音だ。
聖夜の夜には、素敵なプレゼントを用意しなくてはならないの。
あのひとに、あのひとに。

第11週目

アイコン 「天使の人形なんて向こうじゃ気に入ってもらえるかわからなくって、今まで作ったことなかったんですよね。」「…私がこうやってお人形を作り始めた時も、天界に合ったのは人間の女の子のお人形ばかりで。」
アイコン 「どうして天使のお人形じゃいけないの?魔法のつばさだって、天使のお洋服だって、ボクはとてもきれいだとおもうの。」
アイコン 「うーん、自分たちと同じようなお洋服を着せるより、バリエーション豊かな人間のお洋服のほうが可愛がってもらえるかと思いまして…。」
アイコン 「…お洋服だけなら、あとからいくらでも着せ替えてあげたらいいのではないの?」
「これは天使じゃなくて、天使を模したお人形なのだから…。」
アイコン 「たしかにそうなのですけれど…えっと、なんだろう…。」
いつもいつも引っかかっているのは、創作者として重視すべきこだわりなのか、それとも障害となる捨てるべきこだわりなのか。
うまく言葉にできない考えを、簡単に切り捨てていいものだとは、私にはとても思えなくて。
アイコン 「まあ、しばらく作ってみましょうか。『天使人形』たちを。」

第15週目

「お師匠さまは、天界にかえりたいの?」
アイコン 「え?そりゃあそうですよ…お城は勇者を迎え撃つために流れで建ててしまいましたけど、ここに定住するってことはないですよ。
帰ることができるようになったら誰かに譲り渡すことも考えています。」
もうすぐ勇者の進攻もなくなる。そうなれば、私をここに召喚した神さまに頼んで天界へ返してもらえるかもしれない。そのことを提案すると、プリズムさんは少し黙り込んでからそう尋ねてきたのです。
帰ることに疑問なんて持っていなくて、私は素直に考えていたことを答えました。
けれど、プリズムさんはさらに尋ねます。
アイコン 「せっかくこんなにいい場所に住めたのだから、もうずっとここでお人形を作って暮らしたらいいのではないの?お城だって、気に入っているもの。」
ここで、ずっと、暮らす?
私ははじめてその選択肢に気が付きました。
素敵なお城に住んで、マーケットでいろんなものを見て、手に入れて、そしていろんな人にお人形を見てもらう、迎えてもらう。
そんな幸せな暮らしもあるのかもしれない。
けれど、天界での暮らしだって悪くはなかった。みんな親切で、何も不満のない穏やかな暮らしだった。
選べるのはひとつ。私は、
アイコン 「私は、天界で暮らしますよ。向こうでやりたいこともみつけましたし。」
アイコン 「…やりたいこと?」
アイコン 「ええ、帰ったら、天界で天使のお人形を作るんですよ、まえに言っていたでしょう?」
アイコン 「そう、なの…お師匠さまならきっと大丈夫。うまくいく。」
アイコン 「プリズムさんは天界や天使の皆さんがお嫌いですか?」
アイコン 「きらい…じゃない。みんな悪いことも嫌なこともしない、やさしい。
でも、彼らは無関心…だよ、彼らの善意に好意はないの。
アイコン 「人間もきらいじゃない、でも人間はボクのことすきじゃないし、すぐに死ぬの。」
「ボクはどこにいればいい、誰がボクをすきになってくれるのかな?ねえ、お師匠さま、ボク…。」
アイコン 「……。」
プリズムさんの気持ちを知らなかったわけではなくて、彼がずっと自分の居場所がわからずに悩んでいたことも知っていて、そのうえで彼を弟子に迎えたわけで。
私ひとりが彼を認めて受け入れて、好きになっても、彼の心を満たすことはできなかったのでしょう。
アイコン 「天使のお友達ができなかったのなら、この世界で探してみますか?」
アイコン 「だめ、お師匠さまには天界でやりたいことがあるの、それをじゃまできない。」
アイコン 「あなたなら、ひとりでここで生きていけます。ね、魔王さま、やってみませんか?このお城で。」
アイコン 「魔王さま、ボクが?勇者も、来なくなるのに…ボクは必要かな」
アイコン 「あなたは素敵なお洋服を作れるじゃありませんか、きっとみんなに喜ばれますよ。
お願いします、このお城を継いでください。」
アイコン 「や…だ…お師匠さま…いっしょにいたい…すてない、で…!」
崩れるように泣き出してしまったプリズムさんの傍に寄ると、彼は私の胸に顔を預けました。
私は彼に大丈夫、と声を掛けることしかできずに、そのまま彼が落ち着くのを待ちました。
「ごめんなさい、お師匠さま。」
しばらくの時が経って、再び顔を上げた彼は真っ赤にはらした目をこすりながら言いました。
 「こわいの、ひとりになる…でもボク、やるよ。この世界で生きる。」
 「…いいんですか?嬉しいです、あなたがこの城に住んでくれることも、勇気を出してくれたことも。」
 「うん…ありがとう、お城だいじにする…。」
 「私はプリズムさんのこと、ちゃんと好きですからね。
いつでも帰ってきていいですし、私もちゃんと遊びに来ますから!」
この世界にまた戻ってこられるかはわかりませんが、プリズムさんも自分の意思でここに辿り着いたのだから、きっとできない事ではないのでしょう。
そのときこの城がプリズムさんによってどんなふうに作り替えられているのか、私は早くも楽しみで仕方なくなってしまったのでした。
 「まあ、まだ帰れると決まったわけではありません。最後の勇者様たちを迎え撃つお仕事も残っていますからね、明日からもがんばりましょうか!」
 「…そうなの、がんばらなくちゃ。」
お師匠さまの望みが、それこそが、きっとボクのしあわせ。
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